鍼灸による逆子治療-臨床研究の成果の最先端をレポート-

鍼灸による逆子治療-臨床研究の成果の最先端をレポート-

産婦人科で逆子(骨盤位)と診断されたら、なるべく早期に治療をスタートすることが、逆子を直す近道と考えられます。

帝王切開日を確定する期限が提示され、それまでに「自分でできる逆子体操?ヨガ?鍼灸?」と悩んでいる間にも赤ちゃんは成長し、逆子が直るタイミングを失ってしまうかもしれません。

そこで、悩んでいるあなたにむけ、鍼灸治療の効果とその安全性等について、国内外の研究成果を紹介します。ご判断の一助になればありがたいです。

.海外でも珍しくない、逆子の鍼灸治療と臨床研究

海外の最新研究[1]において、逆子の割合は妊娠期を通じて3-4%、妊娠28週以前では25%、32週で7%という報告があります。意外に高いと思われませんか。

これに対する鍼灸治療は、実は海外でも決して珍しいものではなく、海外のホームページ(HP)でも、逆子の施術メニューをうたった鍼灸院サイトを見つけることができます(図1 米国カリフォルニア州の鍼灸院のHP例)。

1 “Breech Presentation” Caron J. Gray; Meaghan M. Shanahan, StatPearls [Internet]. Last Update: August 11, 2021.

図1 米国カリフォルニア州の鍼灸院

https://www.amandaredford.com/moxibustion-for-turning-a-breech-baby/より引用

このような臨床の状況を背景に、治療の裏付けともなる改善効果に関する臨床研究を検索したところ(PUBMED)、3年に1回程度、継続的に研究成果が発表されていることが分かりました。

次にその内容をご紹介します。

2.鍼灸治療の効果と安全性 -鍼灸は逆子矯正に効果的か-

はじめに、前提としてお伝えしておきたいのは過去の一般的なデータから、逆子が自然に直る割合はかなりある、と考えられます[2]。従って本来、逆子矯正率の数字は、逆子治療をしたグループと、しなかったグループの比較をしないと、鍼灸治療との因果関係を示したことにはなりません

「当院では鍼灸により90%以上の逆子が直った実績があります」などとうたう鍼灸院サイトがありますが、施術をしなくても直った場合と比較しているものではまずない、という点に留意すべきです。

海外の臨床研究は、このような「比較を大前提」として実施され科学的に信頼できるものです。

その中で、2021年5月に台湾の専門家によって報告された最新のシステマティック・レビュー[3]では、逆子と鍼灸治療の効果に関する16の主要な臨床研究を総合的に分析した結果、「お灸治療は、出生時の頭位(→正常分娩)を有意に増加させた」と結論づけています。

ちなみにここでいうお灸治療の内容は主に「至陰」(イラスト参照)という足の小指の外側の経穴(ツボ)にお灸を行うものが大多数です。

[2] 23年前の古いものであるが、以下の研究では60%ほどとしている

“Moxibustion for correction of breech presentation: a randomized controlled trial”, Cardini et al, JAMA 1998: 280(18):1580-4

[3] “Correction of Breech Presentation with Moxibustion and Acupuncture: A Systematic Review and Meta-Analysis”, Jian-An Liao et al, Review Healthcare (Basel). 2021 May 22;9(6):619.

また安全性については、もととなった16の研究のうち4件で有害事象を報告しましたがその内容は、お灸に伴う腹痛・のどの問題・不快な臭い、で重篤なものはなかった、と報告されています。

さらに別の信頼できる研究として、米国の権威ある機関であるコクラン・レビューが2012年に行ったレビュー[4]は、8つの臨床研究を元に分析を行い「逆子を矯正するための灸の使用を支持する限定的な証拠」を明らかにしました。

加えて、灸単独よりも、鍼と組み合わせる方が、帝王切開による出産数を減らす可能性を指摘しています。

総じて、逆子矯正の鍼灸治療の効果についての臨床実験では大半が肯定的な結果が得られていました。

なお「日本人が被験者となった研究はないの?」と思われる方もいるかもしれません。残念ながら、国内の臨床研究においては、被験者数が非常に限られたものしか見当たらず、今回はご紹介を控えます。

[4] “Cephalic version by moxibustion for breech presentation”, Meaghan E CoyleCaroline et al, Cochrane Database of Systematic Reviews Review 2012;Version published: 16 May 2012 Version history

3.逆子の週数別の矯正率の違い

次に逆子治療との結果と、妊娠週数の関係についての興味深い国内臨床研究を紹介・引用します。

これは比較研究ではないのですが、香川県の総合病院で10年間にわたり、鍼治療による逆子矯正を行った結果[5]をまとめたものです。この報告では週数別の改善率が集計されており、これをグラフにしたものが以下です。

平均矯正率は77.4%であり、31週以降は矯正率が低下する傾向がややみられることが分かります。

[5]逆子における鍼治療の臨床的検討;佐々木石雄ほか;医道の日本;2019年11月号;P132-136 

4.なぜ逆子が治るのでしょうか?-メカニズムー

なぜ、至陰穴などへの鍼灸施術が骨盤位を頭位へと矯正を促すのでしょうか?

そのメカニズムは実は明らかではありません。

自律神経の反射により,臍帯動脈や子宮動脈が拡張,子宮への動脈血流増加を促した結果,子宮の血流量が増えて軟らかくなり,胎児をかえりやすくしている,[6]という説がある一方、妊娠ウサギによる基礎研究では逆に子宮筋は収縮し、血中オキシトシンが増加、それが胎動の増加を促したと考察され、ヒトの場合とは異なるメカニズムも示されています[7]

いずれにせよ共通しているのは、足のお灸による刺激で少なくとも胎動は増加する、という点です。

私が妊婦さんに鍼灸施術をおすすめする理由は、メカニズムは明らかではないものの、たとえ結果に結びつかなくても副作用はほとんどなく、副次的な効果も期待できるからです。副次的な効果とは、具体的には体の冷え・腰痛・肩こりなどの身体の不調全般の緩和です。

妊婦さんは、出産で心身を極度に消耗するうえに、出産直後からは育児が待っています。出産前からできる限り体調を整えていくことで、産後の赤ちゃんと一緒の生活への備えができます。

[6] 医事新報No.4983 (2019年10月26日発行) P.58形井秀一 (洞峰パーク鍼灸院院長/筑波技術大学名誉教授)登録日: 2019-10-29最終更新日: 2019-10-21コーナー: 質疑応答  臨床一般

[7] 全日本鍼灸学会ホームページ『ここまでわかった鍼灸医学―基礎と臨床との交流』第5講「お灸で骨盤位(逆子)が治る」より https://jsam.jp/wp/wp-content/themes/shinkyu/content/pdf/medicine05.pdf

5.逆子治療の実際

宮崎レディース鍼灸院では、逆子施術に力を入れています。

なぜなら、東京での逆子施術の経験から、適切な施術を行えばかなりの確率でかつ安全に、逆子を直すことが可能と考えるからです。そして、繰り返しになりますが出産・育児に向けた身体の備えにもなるからです。

逆子施術の内容として、お灸だけでなく鍼も併用し、医師から許可がある方は逆子体操も指導します。ただしお腹に鍼やお灸はいたしません。

また、自宅でのお灸セルフケアも重要と考え、そのやり方もお教えします。短期集中ですが(1週間~10日のあいだに3回受けることを推奨)、これをきっかけに産後もお灸を続けていただきたい、という思いがあります。

宮崎レディース鍼灸院は女性専門鍼灸院で、女性鍼灸師が完全個室で施術しプライバシーを守ります。室温や遮音、インテリア、施術中の姿勢等についても、なるべく落ち着いてリラックスしていただけるような配慮をしております。

帝王切開による身体や経済的な負担の大きさを考慮したうえで、ひとりでも多くの方が、初めての鍼灸をこの機会にお受けになることをお待ちしております。

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