いまや40代から60代の女性の7割、日本人女性の約1,200万人が悩んでいるという更年期障害。内科を受診し、ホルモン治療を勧められたものの、乳がんなどの副作用が怖くて「飲まずに我慢をしている」という声も多く聞かれます。
ただでさえ、ほてりやイライラ、倦怠感、睡眠不足や胃痛・腰痛などで心身ともに辛いのに、これ、という治療法がみつからずに耐えているあなた、実は私も同じような経験をしました。
40代半ばのころ、イライラ・ほてりに不眠が重なり、内科ではホルモン療法に抵抗があり漢方薬を試しました。しかし、効果がはっきりとしないまま、決して安くはない漢方薬を長期間飲み続けるかどうか悩み、3か月で止めました。
仕事や介護も重なりその後、空いた時間があれば「休養」としてゴロゴロするうち体重が9キロ増加、体脂肪率は30%を超え生活習慣病予備軍までいった、 最悪の5年間でした。
1.更年期障害の原因は何でしょうか?
更年期になると卵巣の機能が衰え、女性ホルモン、具体的には「エストロゲン」というホルモンの産出が不安定になったり減少したりし始めます。
エストロゲンは受精に備え、卵胞の成熟、子宮内膜の肥厚などの働きをします。さらに自律神経や血中コレステロールの調整、骨密度を維持するなどの働きもあります。
また、このエストロゲンの分泌の「指令」を出すのは脳の視床下部で、自律神経の中枢でもあります。
更年期には、それ以前と同じように「命令ホルモン」が、卵巣へ指令を出しますが、機能の衰え始めた卵巣は指令通りにエストロゲンを分泌できません。
その結果、自律神経が失調して現われるさまざまな症状を更年期障害と呼んでいます。ほてりやイライラ、睡眠障害などは、自律神経が過敏になることと関係します。
(下図を参照)
2.ホルモン療法や、そのほかの対策のメリット・デメリットは?
原因に対する直接的な対策としては一番に、減少した女性ホルモンを体内に取り込み補えばよいことになります。 実際に日本における現在の主流はホルモン補充療法です。
エストロゲンを単独で摂取すると、がんのリスクが高いことが証明されているため、日本ではエストロゲンに「プロゲステロン」という別のホルモンを加えた薬が処方されます。
代表的なものとしてはプレマリン、エストリール、エストリオール、ジュリナ(以上服用薬)、ル・エストロジェル(塗り薬)があり、それぞれ一定の効果、特に血管の収縮に関連する症状(ほてり、発汗、血流の低下、冷え性、倦怠感)には57%~90%の改善が見られたという報告があります。また「肌が若返った」というプラスの嬉しい効果もできます。
しかし心臓病や肝臓への悪影響、また乳がんはじめとするがんの発症率を上げる副作用があり、医師による経過観察や最新の臨床研究に注意をしながら服用を続けることになります。
3.副作用の少ない他の治療法はないのでしょうか?
症状の重さにもよりますが、このような副作用を考えると、ホルモン療法を躊躇する方も多いと思います。
その結果、サプリメントを経口服用する方も多いと思いますがその効果は限定的で副作用がないわけではありません。
例えば大豆にはフィトエストロゲンという植物由来の「エストロゲン」が含まれており、これを摂取するためのサプリメントはネットで簡単に入手できます。
アメリカ植物栄養素の専門研究機関では、 植物性エストロゲンは、うつ病などの治療に用いられる薬(SSRI[1])と同様な働きがある可能性について発表しています[2]。
また大豆に含まれるイソフラボンには、イライラやうつなど、気分の変更への効果、また心疾患に対して一定の効果があることが分かっています[3]。
世界で注目されている大豆やハーブですが、その効果に関する検証は現在進行中であり、更年期障害の特定症状に対しては限定的な効果であると言わざるを得ません。
4.そもそも原因は何だったでしょうか? ホルモンを補充するのではなく、ホルモン・コントロールに着目したらどうでしょうか?
ではそのホルモン分泌をコントロールしているのは何でしょうか?
それは自律神経であり、 視床下部です。 したがってそのコントロール元の「自律神経」を整えることで、ホルモン・バランスを整えることも可能といえます。
自律神経を整える方法としては、ストレス対策、生活習慣(食事、運動)の改善、呼吸法や入浴法、鍼灸、整体やマッサージ等があります。
例えばアメリカの実験では、週に3.5時間以上の運動習慣を取り入れたことで「ほてり」はほぼなくなる、との結果がえられています[4]。
しかし現実には、さまざまの方法があり、どういう方法が自分に合っているのか、自己流でいろいろな方法を試しているが、効果のほどは?という方がほとんどではないでしょうか。
ところで、これらの自律神経を調整する方法に共通する点はなんでしょうか?
それは、閉経が契機にせよ、不適切な生活習慣を変えて新たな習慣を取り入れ、それに対する心身の反応を引き出すことです。
身体を総合的に整えていくことが、自律神経に対して有効であると考えられます。
5.自律神経を整えるために 続けられるおススメの方法
そこで自律神経を整えるために、近年注目されているものの一つが鍼灸の経絡(けいらく)治療です。
経絡治療は伝統的な東洋医学の考え方をもとに、経絡(けいらく)という一種の身体のエネルギーの通り道に、お灸やはりでアプローチをするものです。
せっかく生活習慣を良い方向に変えられたとしても、肝心のあなたの身体の内部において、神経と身体の連携が正しく働いていなければ、その効果は限定的となってしまいます。
効果が実感できれば長続きしますし、また身体の自然治癒力により、身体サイクルの状態が整ってくれば、通院頻度を下げて、メンテナンス程度の通院だけで体調維持が可能となるメリットがあります。
また自律神経を整えることで、更年期障害の症状だけでなく、自律神経に関わる筋肉の緊張、消化器の不調、冷えやストレスといった症状の抑制や予防にもつながります。
ただし難点は、体の内側からの変化・適応を引き出すので、そのための一定の期間(少なく とも1~3か月以上)の時間が必要であること、保険が効かないので費用がかかること、技術や専門性の高い院を選ぶ目が必要な点 です。
6.まとめ
更年期障害の症状をどうにかしたいのであれば、ホルモン補充等、外からの摂取で補おうとするよりもむしろ、自律神経の乱れに着目して、内側から身体を整えていく方がメリットは大きいと考えられます。
健康の決め手は、情報量の多さではなく、あなたの身体が出すサインからしっかり学ぶこと、それらのサインを信頼できる専門家と共有して、あなた個人にとって最適な治療を受けながら、持続可能な形で解決していくことです。
⾧年続いている誤った習慣や思い込みを変え、また将来的さらに身体環境が変化しても、内側から適応できる力を備えられることになります。遠回りにみえますが、結果として近道ではないでしょうか。
鍼灸治療はあなたの身体に備わっている変化への潜在的な力を引き出す手助けとして取り入れるべき、頼りになる習慣の一つといえます。
[1] 選択的セロトニン再取り込み阻害薬
[2] この研究によると、 「抗うつの専門薬であるイミプラミンと比較すると、 その効果は非常に小さいものであったものの、 ゲニステインとダイゼインの両方が、 50μgの容量で、セロトニンの再取り込みを阻害する効果があった。」と発表しています。http://kounenki.hajime888.com/k010.html
[3] シンシナティ大学で行われた植物性エストロゲン(大豆イソフラボン)と心疾患の効果に対する研究によると、 42人の閉経後の女性において、 イソフラボンを約60mg/日 12週間摂取したところ、 血清および尿中のイソフラボン濃度がおおよそ7~19倍に増加し、 酸化LDLの値(動脈硬化や心筋梗塞、心臓病の危険を測る値)の平均遅延時間に有意な増加が見られ(9.3%)、 HDLコレステロール(善玉コレステロール)が3.7%増加していました。また、総コレステロール値も有意に減少していました。
1999年に、米国食品医薬品局(FDA)は、 大豆の毎日の消費は、 冠動脈疾患のリスクを低減するのに有効であると発表しています。
[4] AK Women’s Health Symposium, Feb 18-20, 2000, Atlanta, GA